40 フロンティアを開拓しよう

宇宙建設技術が変える「住まい」の未来

先日、米国の「アルテミス計画」によって、4人の宇宙飛行士をのせた宇宙船「オリオン」が有人宇宙船として初めて月の裏側を周回した。現在、米国だけでなく世界中で宇宙関連の開発が進んでおり、月面居住はもはやSFの世界の話ではなく、数十年以内に実現できる現実的な目標となった。

月面での居住可能性が広がった最大の要因は、資源の発見である。米国やインドの衛星調査により、月に水が存在することが明らかになった。水は飲料水や生活用水となるだけでなく、水素と酸素に分解することでロケットの燃料にもなる。地球からの補給に頼り切らない「循環型社会」を宇宙で構築できる可能性を示唆している。

さらに、日本の月周回衛星「かぐや」が発見した月の中の「竪穴」の存在が、定住への期待を決定づけた。大気も磁気圏もない月面は、放射線や極端な温度差があり、生命体が生存するには過酷な環境である。しかし、この竪穴から続く地下空洞を利用して居住空間を構築すれば、自然のシェルターとして放射線や隕石、温度差から身を守ることができる。

現在、日本でも国土交通省と文部科学省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、ゼネコン、建機メーカー、大学などが連携し、月面での無人建設技術の開発が加速している。

月面建設の障壁の一つに地球からの通信遅延がある。これに対し、小松製作所はサイバー空間に実機を再現する「デジタルツイン技術」で自律化を検証し、鹿島建設は通信遅延下でも複数台の重機を連携させるプラットフォームを構築している。また、清水建設や大成建設が挑む「ハイブリッドSLAM」技術は、測位衛星のない環境下でもAIが周囲を認識し、正確な自動施工を可能にする。さらに、大林組が進める月の表土(レゴリス)をマイクロ波やレーザーで加熱・焼成し、現地で建設材料を製造する技術は、月面での「地産地消」を実現する。

月での居住は夢ではない

住宅・居住の視点では、極限環境でのノウハウが重要となる。ミサワホームが南極で培った建築技術を応用し、YKKやカンボウプラスと共同で開発している「空間連結技術」は、専門知識のない作業者でも容易に建物を拡張できる画期的なものだ。また、2030年以降、地球低軌道における民間活動の拡大も予想されており、早稲田大学ら産官学9機関は一般民間人が健康で快適な宇宙生活を実現するための研究開発を開始している。

我々が宇宙を目指す意義は、宇宙開発そのものにとどまらない。過酷な月面環境で鍛えられた技術は、そのまま地上の課題解決へと直結する可能性をも秘めている。月面での自動運転や自律施工技術は、日本の建設現場が直面する深刻な労働力不足解決にもつながる。また、通信インフラが寸断された被災地における迅速な災害復旧や、南極、地中、海中といった未開拓地での居住可能性を大きく広げる。月での居住実現を目指すことで生まれる技術は、地球上の暮らしをより安全で持続可能なものへと進化させるはずだ。