制度構築で都市部のアフォーダブル住宅安定供給へ

現在、日本の大都市圏、特に東京においては地価高騰が深刻な局面を迎えている。その結果、都市の機能を支えるエッセンシャルワーカーや若年層らが都心部に住み続けることが困難になり、生活基盤が脅かされている。また、再開発によって既存の住民が押し出される「ジェントリフィケーション」も顕在化しており、コミュニティの多様性が喪失しつつある。住宅価格高騰を背景に東京都などがアフォーダブル住宅供給の取り組みを始めたが、その規模は限定的である。
都市部でのこうした状況を打破するためには、市場原理に任せるだけではなく、都市計画の枠組みの中に「居住の権利」を組み込む必要がある。その方法の一つが、「インクルーシブゾーニング(Inclusive Zoning)」の導入である。
インクルーシブゾーニングとは、民間の不動産開発プロジェクトにおいて、一定割合の「アフォーダブル住宅」の供給を開発者に義務付ける、あるいは強く奨励する手法である。この制度の最大の特徴は、公営住宅のような政府や自治体による公的整備に頼るのではなく、民間の開発利益の一部を公共的な目的に還元させる点にある。税金投入を最小限に抑えつつ、民間の活力を利用して住宅供給を増やすことができる合理的な仕組みと言える。
欧米では都市改革の柱
すでに欧米では、この手法が都市政策の柱として機能している。英国には「セクション106」という仕組みが存在する。開発事業者と地方自治体の間で結ばれる計画義務協定のことで、都市部で開発する場合にアフォーダブル住宅を一定割合供給すること、道路・公園などの地域インフラの整備、教育・医療施設の建設などが義務付けられている。
現在、日本では義務化よりも、容積率の緩和と引き換えに、公共性の高い住宅を誘導するというインセンティブ方式が現実的なラインとなっている。しかし今後、空き家の急増や、都市部での家賃高騰がさらに深刻化すれば、単なる新築への義務付けだけでなく、既存の建物を活用した日本型の仕組みが検討されてもいいのではないか。日本版インクルーシブゾーニングの導入を進める上では、開発者へのインセンティブの付与も欠かせない。容積率の大幅な上乗せだけでなく、固定資産税の減免や、アフォーダブル住戸部分の建設費補助など、民間の事業性を損なわない配慮をすることで、官民の連携が深まる。また、供給した住宅の長期的な管理体制を整えることも重要だ。
大都市が一部の富裕層や投資家だけの場所となり、社会を支える労働者が排除される構造は、都市の持続可能性を根底から揺るがす。インクルーシブゾーニングを導入し、民間の開発意欲を都市の公共的課題の解決へとつなげる。そして、エッセンシャルワーカーから若年層まで、誰もが適切な価格で住まいを確保できる都市を実現すべきである。

