「負の遺産」を「地域の資源」に

地方部だけでなく、都市部近郊の住宅地でも目に入るようになった「空き家」。
かつて日本の住宅は、家族の歴史を刻み、地域のコミュニティを形作る最小単位の資産であった。しかし、人口減少と都市部への一極集中、そして「新築至上主義」の影で、“管理者”を失った住宅が全国で急増している。これらの多くは、所有者の関心の欠如、そして税制上のインセンティブによって不動産市場から隔離され、「負の遺産」と化している。
空き家問題が社会問題化している最大の要因は、膨大な住宅ストックが存在しながら、それらが中古住宅市場に適正に供給されない「流通の目詰まり」にある。これまで、建物が建っていれば土地の固定資産税が最大6分の1に軽減される優遇措置が、皮肉にも「使わない家を取り壊さない」動機となってきた。その結果、倒壊の恐れがある「特定空家」や、空き家予備軍とも言える「管理不全空家」が放置され、地域の資産価値を押し下げる悪循環を生んでいる。
さらに、名義変更がなされないまま所有者不明となった物件は、売買や改修の意思決定を不可能にし、中古市場への供給ルートを完全に遮断してしまった。
住宅業界は地域の資源を掘り起こすプロデューサーに
こうした停滞を打破するため、国でも様々な対策を講じている。改正空家対策特別措置法では、「特定空家」に加えて、「管理不全空家」についても、固定資産税の減額措置を解除できるようにした。
また、相続登記の義務化は、長年の懸案であった所有者不明問題に終止符を打ち、不動産の「出口戦略」を明確化するための基盤となるだろう。さらに注目すべきは、地方自治体による独自の挑戦だ。京都市が2029年から開始する「非居住住宅利活用促進税(空家税)」は、空き家や別荘などの所有者に対し、居住の実態がない場合に課税する制度である。
空き家を流通させることは、単に古い建物を減らすことではない。地域の資産価値を維持し、次世代に豊かな住環境を引き継ぐ「循環型市場」を創造することにもつながる。その好循環を作り出していくためには、空き家をリノベーションして市場に供給する事業者への支援や、流通を阻害する登記手続きの簡素化、さらには中古住宅に対する適切な評価制度の確立なども求められるだろう。
「古くても価値がある」、「手入れをすれば住み継げる」という認識が社会に定着したとき、空き家は地域の足かせではなく、貴重な「地域の資源」へと姿を変えるはずだ。
この変革を加速させる上で、住宅業界の役割が重要になる。これまでの「建てて売る」というビジネスモデルから、地域の既存ストックを掘り起こし、再生させ、新たな居住者へとつなぐプロデューサーへと業態を転換することで、新たな事業領域も見えてくるのではないか。

