09 家庭内事故ゼロを目指そう

わが家を一番安全な場所に

わが家が一番安全。多くの人々がそう思っているだろう。しかし、決してわが家が安全でないことを統計データが示している。

厚生労働省が公表した「人口動態統計(確定数)」(2024年)によれば、家庭内における不慮の事故による死亡者数は1万7320人に達している。同統計における交通事故による死亡者数は2678人。住宅内での事故死は交通事故の約6.倍に達している。

かつて交通事故は「交通戦争」と称されるほど社会問題化し、ガードレールの整備やシートベルトの義務化、自動ブレーキ技術の導入といった官民一体の対策によって劇的に減少した。しかし、住宅内事故はどうだろうか。プライバシーの壁に守られた閉鎖空間である住宅内では、個人の自己責任として片付けられがちであった。だが、交通事故の約6・5倍もの人が住宅内での事故で死亡している事実は、もはや個人の注意力の問題ではなく、住宅そのものの構造的・機能的欠陥に起因する社会課題として捉え直すべきだろう。

家庭内事故のなかでも特に深刻なのが、冬場の入浴中に多発する「ヒートショック」。急激な温度変化が血圧を乱高下させ、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすこの現象は、家庭の浴槽での溺死・溺水事故の大きな要因となっているとみられている。日本の住宅、特に既存の古い木造住宅においては、居室と脱衣所・浴室との温度差が10度以上に達することも珍しくない。先進諸国の中でも日本の住宅の断熱基準は長らく低水準に留まっており、この「寒すぎる家」が人々の命を奪い続けている。

事故を未然に防ぐ家を実現

まず考えるべきは、住宅の「熱的バリアフリー化」である。高断熱・高気密化を徹底し、家中の温度差を最小限に抑えることで、ヒートショックの芽を根本から摘み取る。ZEH基準を超える断熱性能や、樹脂サッシ・トリプルガラスの標準採用は、もはや省エネ性能を高めるためのオプションではなく、命を守るための「標準装備」と考えるべきだ。

物理的なバリアフリーの高度化にも取り組む必要がある。高齢化社会において、わずかな段差や不適切な手すりの配置は転落・転倒事故に直結する。これを防ぐためには、単に段差をなくすだけでなく、転倒しても骨折しにくい衝撃吸収フローリングの採用、センサー技術やDX技術を活用した日常の健康状態をモニタリングする仕組みの導入といったテクノロジーを駆使した安全設計が求められる。

住宅業界が目指すべきゴールは、住宅内事故の「削減」ではない。「可能な限りのゼロ」である。自動車業界が「衝突しても死なない車」から「衝突しない車」へと進化したように、住宅業界も「事故が起きにくい家」から「事故を未然に防ぎ、命を守り切る家」へと進化を遂げるべきだろう。