住まいを本当の終の棲家に

日本の高齢者の多くが「最期は住み慣れた自宅で迎えたい」と望む一方、実際に自宅で看取られる割合は約17%に留まっている。在宅死が20〜40%台を占める欧米諸国と比較すると、日本は依然として病院偏重と言わざるを得ない。こうした状況は公的な医療費の増大という問題も突き付けている。
それだけに、住宅産業界には、単なる生活の器を提供するだけでなく、自宅に「病院機能」を実装・強化していくことが求められているのだ。
国では団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年を見据え、「地域包括ケアシステム」の構築を推進している。これは医療や介護の提供の場を、大規模病院から地域・在宅へと本格的に移行させる国策である。病床数の抑制と医療費削減が急務となる中、在宅医療へシフトしていこうというわけだ。この取り組みを成功させるには、住まいを医療従事者がケアを提供しやすく、高齢者が安全に療養できる社会基盤へとアップデートすることが不可欠である。
自宅を病院化するための技術が花開く
自宅を「病院化」するための技術的な環境はすでに整いつつある。ITを用いた遠隔医療(オンライン診療)は普及期に入り、医師が画面越しに患者の顔色や状態を高精度に確認できるようになった。
さらに、住宅そのものにIoTセンサーを組み込む「スマートヘルスホーム」の技術の発展も見逃せない。ベッドのマットレス、トイレの便座、室内の照明や床材などに非接触センサーを内蔵し、心拍、呼吸数、睡眠深度、排泄リズムといったバイタルデータを日常的かつ無意識のうちに継続計測する。
ウェアラブルデバイスとも連携し、取得したデータをAIが解析することで、急変の予兆を捉えてかかりつけ医に自動アラートを送るような仕組みが、これからの住宅の標準的な機能となり得るだろう。
しかし、自宅を真の「病院」にするためには、越えなければならない課題が山積していることも事実。例えば、個人情報保護に関するガイドラインの整備や、家庭内での医療機器の操作・管理に関する法的規制が必要になるだろう。
訪問医療そのものの難しさもある。24時間体制で急変に対応できる在宅医や訪問看護師の数は地域によって偏りがある。加えて、同居家族の不在時や深夜の容体急変に対する対応は、テクノロジーだけで完全にカバーできるものではない。
こうした課題を乗り越えつつ、住宅産業界は医療、介護、ITの各分野と緊密に連携し、「医療を内包する住まい」という新たな価値を創造する必要がある。
テクノロジーの力で家族と医療者の負担を減らし、「誰もが安心して最期まで暮らせる病院機能付き住宅」を社会に提供できるようになった時こそ、真の意味での「終の棲家」が実現するのだ。

