住み手が修繕、創造できる賃貸住宅を

賃貸住宅における「原状回復義務」は、長らく当たり前の前提として運用されてきた。退去時には入居前の状態に戻すことが求められ、居住者は壁に穴を開けることや塗装の変更など、住まいに手を加える行為を制限されてきた。賃貸住宅は常に“初期状態の美しさ”の維持が求められる。しかし、この考え方は今後も合理的であり続けるのだろうか。
暮らしの多様化が進む中で、住まいに求められるものは画一的な完成度の高さではなくなっている。近年はDIY型賃貸やカスタマイズ可能な住宅も登場し、住まい手が自ら手を加える動きは広がりつつある。例えば、(独)都市再生機構は、契約時に3ヶ月間の使用契約(家賃無料)と、使用契約満了日の翌日を入居開始とする賃貸借契約を締結することで、入居までの3ヶ月間、自由にプランニング&施工を行える「DIY住宅」を提供している。
しかしこのような例はいまだにごく一部に限られており、多くの賃貸住宅では原状回復義務が前提となっている。
多文化共生、ライフスタイルの変容に柔軟に対応
また、日本に住む外国人が増加する中での対応という観点も重要である。価値観の異なる居住者と賃貸オーナーが双方にストレスなく共存していくためにも、従来の原状回復を前提とした賃貸のあり方は見直しの余地がある。ある賃貸オーナーは「外国人が退去した後の部屋は状態が悪いと感じることが多い。原状回復に対する意識が日本人とは異なるのではないか。それならば、最初から現状のまま引き渡して、自由に住んでもらう形の方がお互いにとって合理的かもしれない」と話す。
もちろん、管理者にとっては、無制限な改修を許容することへの不安もあるだろう。集合住宅特有の近隣トラブルの懸念、構造に影響を及ぼす過度な解体や、騒音・異臭を伴う工事が行われれば、共同住宅としての調和が乱れるリスクも否定できない。その場合には、改修内容を事前にオーナーと共有し、変更のボーダーラインをつくるといった柔軟な運用も考えられる。さらに、日本人の中にも「本来であれば住まいを手入れしたいが、賃貸であるがゆえに手を加えられない」と感じている層は少なくない。例えば、「原状回復」の前提は、壁にフックを取り付ける、壁紙を貼りなおすといった、生活を快適にするための手入れにも制限をかける。居住者のニーズも時代とともに変化する中で、実際に暮らして分かる不便さや改善点もあるはずだ。
住まい手が主体的に手を加え、必要に応じて自ら修繕する。そうした仕組みが整えば、居住満足度の向上にとどまらず、結果としてオーナー側の維持管理負担の軽減にもつながる可能性がある。原状回復を前提とする従来の賃貸の枠組みを問い直し、「使いこなす住まい」へと転換していくことが求められている。

