「そこでしか見られない景色」を再生

全国、どこに行っても同じような風景が広がる…。
かつて日本の建築は、その土地の気候、風土、そして人々の暮らしの作法と密接に結びついていた。戦後の高度経済成長期以降の住宅供給は、効率性と汎用性を優先し、地域の固有性を切り捨ててしまった。
その一方で、限定的な枠組みではあるものの、歴史的な街並み景観を守ろうという取り組みもある。例えば、石川県金沢市は、全国に先駆けて景観計画を策定し、建物の色彩や看板の形態、さらには照明の明るさに至るまで細かな基準を設けている。また、岡山県倉敷市の美観地区や奈良県奈良市の今井町では、重要伝統的建造物群保存地区としての厳しい規制と引き換えに、手厚い補助金制度を運用し、住民と共に「白壁」や「格子」といった地域の象徴を守り抜いている。
その土地の気候風土を再発見する
この取り組みを、一般的な住宅街でも行うことができれば、日本の街並み景観は飛躍的に向上し、「そこでしか見られない景色」が全国に広がることになる。
その第一歩として、地域の建築文化を象徴する「デザインコード」を明確化し、それを遵守する仕組みを構築すべきである。
デザインコードを策定する上で重要なのは、その土地の「気候風土」を再発見すること。例えば積雪地における屋根の勾配、日差しの強い地域における深い軒の出などは、まさにその地で生きるための知恵から生まれた“機能美”である。加えて、地元の素材(木材、石材、左官材など)の使用や、地域特有の意匠(格子、生垣、瓦の形式など)を組み合わせたコードを定めるべきである。
また、最新の環境技術と伝統的な知恵を融合させた「現代の地域建築」の確立を目指すべきであろう。
デザインコードの厳守は、経済的にも合理的な選択になる。欧州の歴史的な都市や、前述した金沢や倉敷の事例が示すように、統一感のある美しい街並みは、不動産としての価値を維持・向上させる。デザインコードに従って建てられた住宅は、時代が変わっても「その場所に住みたい」という需要を喚起し続ける。事業者にとっても、デザインコードを遵守した街づくりを行うことは、長期的なブランド価値を構築する投資となるはずだ。
この変革を推進するためには、自治体による強力な後押しが不可欠である。景観法に基づく景観計画をより具体化し、地域の特性に応じたデザインコードを策定すること。そして、そのコードを遵守する建築に対して、固定資産税の減免や容積率の緩和、修繕補助といったインセンティブを付与する仕組みを整えていく。
住宅業界もまた、地域の景観形成のアドバイザーへと転換しなければならない。地元の工務店や設計者が協力し、その地域らしい美しさを定義し、継承していく役割を担うべきである。

