川島 壮史 氏

INNFRA 代表取締役

東日本大震災以降、エネルギー業界では太陽光発電など再生可能エネルギーの普及が進み、従来の集中型から分散型のエネルギー資源へと転換する動きが加速しました。地域に分散型のテクノロジーがあるのなら、それらをフル活用して需要と供給を一体化させ、自給自足で賄える持続可能な暮らしが実現できるのではないか。そう考えたことが、私たちの取り組みの出発点です。

住環境において、電気は太陽光パネルと蓄電池で賄うことが比較的容易ですが、人が生きていく上で欠かせない「水」のインフラを分散型で賄うことは大きな壁でした。我々は2022年から山梨県北杜市で自らオフグリッド環境に身を置き、排水から真水を取り出して循環させる実験をスタートさせました。

当初は排水が腐敗し、家中に悪臭が充満するような失敗も経験しました。従来からある、特殊なフィルター(膜)で汚れをこし取るだけの仕組みでは、すぐにフィルターの目が詰まり、膨大なランニングコストがかかってしまいます。

そこで、大学の研究者や水処理メーカーの方々から指導を仰ぎながら、フィルターに通す前段に「生物処理」の工程を組み込みました。生活排水をタンクに約48時間滞留させて微生物の力で有機物を完全分解し、最後の仕上げとして膜ろ過を行うのです。このアプローチにより、フィルターへの負荷を極限まで下げ、平常時から安定して100%水を循環し続けられる独自の「水循環システム」を確立したのです。

インフラを「引く」から「置く」への転換

この水循環システムは、上下水道に繋ぐ必要がないため、「水を得る」問題と「排水を処理する」問題を一挙に解決できます。一度タンクに水を貯めてしまえば、半永久的に使い続けることができます。水質についても、水道法の水質基準をクリアしており、蛇口から出る水道水と変わらない安全性を実現しています。

この技術を用いて、コンテナ型自立拠点パッケージ「INNFRA Base」を商品化しました。防災拠点向けに最適化されたエネルギーと⽔のインフラパッケージで、コンテナ型とすることで設置の簡略化と可搬性を実現しつつ、最⼤100⼈4週間の避難⽣活に必要なインフラを提供します。

水道管などの本管から敷地までインフラを引き込む場合、どの程度の距離であれば私たちのオフグリッドシステムを置く方がコストメリットが大きくなるかを分析したことがあります。その結果は「わずか560m」でした。徒歩7分程度の距離です。

本管から1㎞離れればインフラを引き込むだけで4千万円、3㎞離れれば1億円近いコストがかかります。しかし、私たちの自律型インフラユニットであれば、距離に関係なく3千万円規模で「ポンと置く」だけで完結します。

「場所」の価値を再定義する

インフラが「置ける」ようになると、住宅や不動産における「場所」の捉え方が根本から変わります。「インフラが通っている」という前提が外れた瞬間に、「実はここは素晴らしい場所じゃないか」と、今まで無意識に見過ごされてきた土地の価値が顕在化するのです。

象徴的な実証実験として、沖縄の世界文化遺産である「中城城跡」でのプロジェクトがあります。景色も良く歴史的な意義もある素晴らしい場所ですが、世界文化遺産であるため開発規制が厳しく、宿泊施設などを建設することは不可能です。

しかし私たちは、敷地にウッドデッキを敷き、電気自動車からの給電システムと、私たちの水循環システムを備えたシャワーブースと温水プールを「置く」ことで、仮設のポップアップリゾートを作り上げました。

今後の展開として、インフラユニットをさらに大型化し、集落やヴィレッジ単位で「シェア」するモデルを目指しています。複数戸でインフラを共有することで、初期投資をさらに抑え、災害時の強靭な防災拠点(在宅避難所)としても機能します。期間限定のイベント時に、インフラごと移動させて宿泊施設を構築するといった「可動産」としてのニーズも高まっています。

こうした自由な暮らしのためには、「建築」のあり方そのものも見直す必要があると私は考えています。

資源が限られたオフグリッド環境では、パッシブデザインの性能が大前提となります。見た目のステレオタイプにとらわれず、「真に必要な空間とは何か」「過剰な部分はないか」を削ぎ落とし、建築とインフラを一体で最適化していく設計が求められるのです。

これからの住宅産業は、これまでの「インフラに縛られた土地選び」や「一生に一度のマイホーム」といった固定観念から人々を解放していく役割を担っています。場所の制約がなくなり、住みたい場所に住み、環境に負荷をかけずに豊かな暮らしを享受する。私たちが提供する自律型インフラ技術が、そうした新しい住宅産業の領域を切り拓く一助になれば幸いです。

(聞き手:中山紀文)