ドラスティックに変わる評価をめぐる環境
それでも「安全・安心」の目的・役割は変わらない
中大規模木造の広がり、ストックの有効活用、そしてホールライフカーボンと建築物の評価はその幅を広げる。
技術の進化、社会環境が劇的に変わりつつあるなか、その現状、そして未来について、わが国の建築物の評価を担ってきた(一財)日本建築センターの橋本公博理事長に聞いた。

日本建築センターがこれまで手掛けてきた評価や確認、また、その他のサービスは、常に建築物の技術に関するベーシックな部分を押さえ、国民皆が安全・安心に生活できる環境を整えることが大きな目的です。1965年の設立以降、その役割は変わっていません。
ただ、技術は日進月歩で進化していますので、私たちもその変化に応じて取り組むべきことを見直しながら評価業務を進めています。最近では大規模木造やBIMへの対応、また、先に建築物省エネ法が改正されましたがホールライフカーボンの評価など、時代と共に取り組むべきこと、評価する対象や評価の内容は少しずつ変わってきます。
例えば、耐震が良い例です。大きな地震被害が起こるたびに耐震基準が強化されてきました。あるいは長周期地震動など以前は考えていなかった評価項目が加わりました。しかし、大規模な地震で生命財産に損傷を与えない、安全・安心を守るという基本的な切り口は変わっていません。
建築基準法をはじめとする基準、世の中の様々なモノサシに基づいて評価していくという私たちの役目は変わっておらず、今後も変わらないと考えています。
省エネ住宅のあり方は〝魔法瓶〟だけではない
2025年4月の改正・建築物省エネ法の施行によりすべての新築住宅・非住宅で省エネ基準への適合が義務化されました。
今後、建築物の省エネ化をどのように進めていくのか。住宅をはじめ建築物をいわゆる魔法瓶のようにすることは、一つの大きな解決策です。しかし、パッシブなど違う解もあると思っています。ただ、具体的な評価の仕方は確立されてはいません。
少し話はずれますが、石場建て(地面に置いた基礎石の上に直接木製の柱を立てる伝統的建築工法)をどのように評価するかについても議論があります。現在の建築基準法は、積極的に評価していませんが、日本の伝統工法であり効果があるという意見もあります。残念ながらどのように評価すべきか道筋は見えていません。
社会的なコンセンサスを得てから評価をするだけではなく、個別にそれぞれの状況に応じて評価の基準を作りながら評価をするという方法もあります。欧州を中心に採用されている「アグレマン」という制度があります。既存の基準や規格が存在しないものについて、評価の基準を自分で作り自分で評価をする仕組みです。評価結果の責任を誰が取るのかという問題もあるため簡単には言えませんが、日本においても「アグレマン」のような制度があっても良いと思っています。
木の使い方にもっと汎用性を
規格化をさらに推進すべき
大きな流れの一つとして建築物の木造化・木質化があります。日本建築センターでも自主評価事業のなかで木材利用促進に係る建築物・建築材料の評価を積極的に実施しており、着実に実績が増えています。
ただ、社会的に注目が高まっていることは事実ですが、建築における使い方については、まだ途上にあるのではないでしょうか。例えば、オーストリアで見たCLTによるホテルは壁も床も仕上げ材で覆われ、木造だと言われなければ分からない。ヨーロッパでは木を普通の材の一つとして使っているわけです。再生可能な材を建築で生かしている。日本はまだそこまでには至っておらず、木を使うことが良いことだから木を見せてアピールする、若干、そういう雰囲気があるのではないかと思います。
日本建築センターで行っている技術評価では、純木造よりも混構造、ハイブリッドが多く、各社が特許を取るような技術開発を積極的に進めていることが分かります。
逆に言うと、汎用性のある木の使い方がもっと出てこなければ、あるいは中小の施工者がもっと気軽に木を使える素地が広がらなければ、今後、木造化・木質化は伸び悩むのではないかと懸念しています。材の規格化、工法の規格化をさらに進めていく必要があると思います。
RC造の耐用年数評価で実績
既存建物評価に大きな可能性
既存建築物の自主評価事業は、比較的新しい事業です。とりわけ既存鉄筋コンクリート造の建築物の耐用年数評価については、2019年より業務を開始し、2026年3月末までの7年間で488棟の耐用年数評価を実施してきました。
評価棟数が積み重なるなかで多くの知見が得られています。例えば、古い建築物ほどコンクリート強度が低い、中性化が進行しているとも一概に言えず、むしろ高度成長期に大量に建築した建物の中にはコンクリートの質が低いものがあることが分かりました。日本建築学会等でも発表していますし、2024年12月に耐用年数推計方法について特許を取得しました。
鉄筋コンクリート造の耐用年数は一般的には60年程度と言われてきましたが、我々がしっかり調査し残存耐用年数を推計した結果、調査時点からの耐用年数が100年超のものが約3分の2も占めるなど、はるかに長い耐用年数のものが多いことが分かりました。築数十年で建て替えなくても、うまくリフォーム、レトロフィットをすれば、まだまだ使えるということが数字で明らかになりました。これからの重要な視点であり、非常に意義のある事業だと考えています。この評価を活用し公共施設を建て替えから長寿命化に切り替えた公共団体がいくつもあります。
耐用年数評価の依頼は、公共施設の長期活用の可能性を把握したいという視点で自治体等から依頼されるケースが多いのですが、昨今は民間事業者からの依頼も増えつつあります。今後、民間のマンションでも耐用年数評価の活用が増えてくると、住宅市場の構造や住宅への指向など、世の中の雰囲気も大きく変わるのではないでしょうか。建築費の高騰もあり、スクラップ&ビルドからストック活用へ転換する大きな契機が訪れていると思います。
既存建物の評価は、色々な試行をしながら伸ばしていきたいと考えています。例えば、コンクリートだけでなく木造の耐用年数評価です。社会的にも木のリサイクルに対する関心が高まっています。さらに、ファシリティマネジメントの視点、あるいは震災後の建物の安全性評価など別の切り口があるかもしれません。今後、世の中全体としてもっと「あるものを有効に使う」という方向に進んでいくべきだと思いますし、実際に進んでいくと思います。
LCCO2評価は使命
課題は人材の確保
新しい動きのなかで、一つ大きなものがホールライフカーボン、ライフサイクルCO2(LCCO2)の評価です。先の建築物省エネ法の改正で、住宅・非住宅を問わずすべての建築物を対象に、第三者評価によるLCCO2の削減効果を認証・表示できる新制度が創設されました。また、建築士や建築業者に対し建築主へのLCCO2の排出量・削減量に関する説明を努力義務とし、大規模建築物についてはLCCO2評価結果の国への提出を義務化しました。
この第三者の評価機関として日本建築センターが名乗りを上げないことはありえません。私たちの役目、使命だと考えています。私たちは製品や材料に関する知見を持たないため他の団体と協力する必要がありますが、建築のことをよく知る私たちが一番に手を挙げるべきと準備を進めています。
日本の建築・住宅業界においては、LCCO2の考え方は当たり前の概念です。EUなどでLCCO2と言い出して急に大きな注目を集めてはいますが、日本はずいぶん以前から議論を続けてきました。私たちだけではなく、評価をする事業者は多く出てくるでしょう。その枠組みについて業界の中で話をしていますし、今後、国交省も一定の方針を示すと思います。
LCCO2の評価に取り組む上での課題は「人」です。評価の仕方がどのようになるかまだ分かりませんが、ISO9000や14000のような、いわゆるシステム的な評価の素養も必要になるでしょうし、当然、CO2発生のメカニズムなども理解している必要があります。非常に幅広い知識が求められるため、すぐに人材を育てられるわけではなく、省エネの審査を行っているスタッフなどが勉強して対応することを考えています。
AIの進化で劇的な変化
それでも変わらない
日本建築センターの今後の姿については、正直、見通せない難しさがあります。大きな要因の一つがAIの導入です。AIの進化は非常に早く、建築の設計あるいは評価、審査の分野に一気に入ってくるでしょう。そのような時代に日本建築センターの仕事はどうなるのか、非常に興味深いとともに、強い危機感も持っています。建築確認業務はAIの導入で効率が劇的に高まるかもしれませんし、逆にドラスティックに仕事が減るかもしれません。私たちの強みである技術評価、評定については底堅く推移すると考えていますが、それ以外は業界全体が縮小する可能性もあります。
今後、間違いなく世の中は変わります。BIMもそうですが、本当にBIMが建築設計のベースになった時、評価の仕方はこれまで通りで良いのでしょうか。私たちは、このような急激な変化に対応していかなければなりません。
今、国土交通省が検討している「建築分野における中長期的なビジョン」に注目しています。2027年春頃の最終とりまとめを目指し、ストック、担い手、質・技術、DX、市街地という5つのワーキンググループで、それぞれのテーマについて議論を進めています。この議論が日本建築センターの今後の果たすべき役割のベースになると思います。
日本建築センターの仕事の根底にある「国民の安全・安心」という目的は決して揺らぎませんが、その上で展開するさまざまな事業は、今後、大きく変わってくると考えています。
(聞き手:平澤和弘)

