川口 哲平 氏

全国空き家対策コンソーシアム 代表理事 

収益につながる構造にしなければ空き家問題は解決しない

全国空き家対策コンソーシアムは2023年9月に、理事、会員あわせて12の企業・団体でスタートしました。現在は正会員が27、賛同自治体が4、賛助会員が16、学術団体が1、アンバサダーが1と、スタートアップから大企業までが参画しています。

「空き家で困る人がいない日本に。」というスローガンを掲げ、大きく2つの取り組みを進めています。一つは政策提言、世論形成を通じて空き家問題解決と産業創造を実現すること。空き家の増加が社会問題化していますが、既存の枠組みのなかで解決できなかったからこそ社会問題化しているわけで、官民一体となって消費者を巻き込んだ取り組みが必要です。また、ビジネスプレイヤーの対応が収益につながるような産業構造にしていかなければ問題は解決しないとも考えています。
2つめが産学官の会員同士の交流を通じて空き家対策に関する知見やノウハウを高めていくこと。それぞれ得意な領域を持つプレイヤーが意見交換をしながら取り組むことで相乗効果があると考えています。

例えば、東京大学連携研究機構 不動産イノベーションセンターは空き家が存在することで半径50mの不動産取引価格が3%程度下落すると、定量的にどの程度の影響が出るかを可視化しましたが、コンソーシアムでは同センターと連携し、同様の効果が首都圏でも見られることを明らかにしました。その結果をもとに5年で約3.9兆円の経済損失があったと試算しています。

また、イベント開催を積極的に続けています。自治体向けの「空き家対策カンファレンス」や消費者向けの「すまいの終活フェスティバル」、ビジネス交流の場として「空き家ビジネスサミット」を開催してきています。

大都市以外のエリアで空き家率はさらに高まっていく

野村総研の直近の予測によると、2043年には4軒に1軒が空き家になる。過去の試算からだんだんと下方修正がされていますが、これは対策が進んだことにより、当初の想定よりも増加率が抑えられているからです。ただ、空き家が減少するまでには至っていません。大きな要因の一つが世帯数の減少です。これまでは地方から都心部に人が移ることで地方の世帯数が減少し空き家が増えてきた。しかし、今後、日本全体で世帯数が減る局面に入ると、さらに世帯数が減る地域の比率が増えてくる。空き家の増加に加速がつくのではないかと危機感を持っています。

先にコンソーシアムは「全国放置空き家率増減マップ」をまとめました。総務省の空き家率のデータをもとに2008年と2023年の差分を見て、空き家率が高まっているところを赤、減少しているところを青と色分けしました。青の地域はほとんどなく、日本全体で空き家が増えています。なかでも空き家率が増加しているエリアには大きく二つの傾向があります。全国的にみると三大都市圏を除いたエリアでの空き家率が加速度的に高まっていること。また、都道府県ごとでは県庁所在地以外の市区町村で空き家率が高まっています。これは全国的にも都道府県単位でも、人口がより便利な都市部に集まっているということの表れです。今後、中心部以外の地域での空き家率増加がさらに加速していくのではないかと考えています。

評価の仕組みの構築でより柔軟なファイナンスを

管理不全空家について固定資産税の特例を解除できる仕組みや、活用の場での用途規制の緩和など国の取り組みが進んできましたが、もっとスピードを上げる必要があると考えています。

空き家問題は日本だけに限りません。諸外国をみると、空き家として一定期間放置されたら行政に使用権が渡ったり、より強い勧告が入るなど、国や自治体が強い権力を持って地域の財産を良くしていく取り組みの例があります。補修に大胆に公金を使ったり、自治体がいったん取得したうえで近隣居住者に売却するという取り組みもあります。日本も一歩踏み込む対策が必要なのではないでしょうか。

一方で、固定資産税の住宅用地特例について、3年前の空家対策特措法の改正によって勧告により解除できるようになりました。しかし、コンソーシアムが昨年行った調査では、回答を得た183自治体のうち管理不全空家の勧告を行った実績を持つ自治体は6%しかいませんでした。国が決めても自治体が動くまでにタイムラグがある。非常にもったいない話であり、もっとスピードを上げていくべきだと思います。

一方、民間の動きについては、解体、不動産仲介、買い取り、有償引き取り、管理、リノベーション、転貸など、さまざまなソリューションが出てきており、消費者の選択肢も広がってきました。

ただ、ファイナンスの領域については課題が残っています。資産性の有無、活用のニーズなどの状況により評価の良し悪しが金融機関によって異なる、案件単位の評価なのか融資を受ける事業者に対する評価なのかわからない、といった話を聞きます。

背景には、リスク評価が難しいことがあるのではないでしょうか。金融機関にしてみれば、評価証明のようなものがない建物に対してどれだけ融資ができるのか、腰が重くなる面もあると感じています。住宅が築年数のみで評価されるという現状の課題に加え、十分な管理がなされていない空き家の建物評価の難しさがあると思います。

ただ、逆に言えば、そこが上手くできれば大きなビジネスチャンスにつながるということです。評価の仕組みを構築し、ファイナンスがより柔軟に行われれば、空き家の活用はさらに進むと思います。

シャッター街を適度に間引き住みたいまちへ

空き家が住宅ストックだと言われることもありますが、ストックになり得る候補ではあるものの、なかにはストックにならない空き家もあります。ですから空き家に対して一様に対処すること自体が難しい。

ストックと呼べる条件の一つに地域性があると思います。住宅の需要があるのか、生むことができるのかということが重要です。例えば、首都圏の住宅価格が上昇し取得が難しくなるなか、通勤距離は少し伸びても周辺部で中古住宅なり空き家を購入して住むというニーズがあります。こうしたエリアでは空き家は住宅ストックになり得ます。しかし、空き家率が非常に高い地域で、大きな企業誘致のような空き家率を下げる人口流入が期待できないエリアにおいて空き家をストックとして位置付けるのは非常に難しい。人口が減少するエリアで劣化が進む空き家は単なる負債でしかないのです。ですから空き家対策は、地域の特性やニーズ、建物の状況に合わせて取捨選択していくことが非常に重要だと考えています。

全国の自治体に足を運んでみると駅の近くなど暮らしやすい場所以外で空き家率が増加しています。市区町村のなかでもエリアの取捨選択が必要になっているということです。極論を言えば、ポツンと一軒家状態になっている空き家は、放置しておいても誰の迷惑にもならず、公金を投じる必要はないと思います。駅の近くの活気があるエリアも市場原理が働きます。問題はそのあいだにある、市場原理のみでは解決できない状況、放置しておくとさらに荒廃が進み、住み心地が悪くなり、不動産取引価格の下落を促進させてしまうような状態を作り出している空き家です。こうしたエリアは個人の問題ではなく地域の問題になりますから対策に力を入れていく必要があります。

例えば、シャッター街と呼ばれる商店街が全国にあります。使われなくなった建物を適度に間引きながら、できれば多額の投資をすることなく、菜園や公園など有益なスペースへと変えていければ、魅力的な、味のある、住みたいと思えるまちになっていくでしょう。

プロダクトアウトを脱却し持続可能なまちづくりを

空き家の活用を考える時、どうしてもプロダクトアウトの視点になりがちです。ハコがあるから何かに活かせないか、だったら古民家カフェをやろう、そんなことを言っている状況ではありません。当然、古民家カフェに適した空き家はありますが、そのポテンシャルを持つのはごく一部の空き家です。

ニーズを創り出せるかどうか、そのニーズに対してリスクを取って事業化する事業者がいるかどうか、空き家活用においてその2つはセットです。そうでなければ持続可能性はありません。

それぞれの市場をしっかりと踏まえたうえで、今後のまちづくりを考えていく必要があります。適切にダウンサイジングしながら持続可能なものにしていくためにどうしたらよいのか、その議論が必要だと考えています。

全国空き家対策コンソーシアム 代表理事
川口 哲平 氏(クラッソーネ 代表取締役CEO)

川口氏は「空き家先生」の肩書で、講演会やメディア対応、執筆活動などに取り組んでいる。空き家所有者にとってさまざまな選択肢があるが、「何から始めてよいのかわからない、誰かに聞きたい、という方も少なくない。そうした方にとってわかりやすい存在とは何かと考えた時、それはやはり“先生”だろう」と、“わかりやすく伝える”ことに重きをおいて精力的な活動を続けている。

(聞き手:平澤知弘)

  • 大月 敏雄 氏

    東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 教授
  • 松村 秀一 氏

    神戸芸術工科大学 学長
  • 伊藤 明子 氏

    元国土交通省住宅局長 元消費者庁長官 まち・ひと・しごと研究所 代表取締役
  • 村上 周三 氏

    (一財)住宅・建築SDGs推進センター 顧問  東京大学 名誉教授 
  • 安成 信次 氏

    (一社)JBN・全国工務店協会 会長
  • 川口 哲平 氏

    全国空き家対策コンソーシアム 代表理事 
  • 内山 博文 氏

    (一社)リノベーション協議会 会長 
  • 芳井 敬一 氏

    (一社)プレハブ建築協会 会長 大和ハウス工業 代表取締役会長
  • 清家 剛 氏

    東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 教授
  • 野城 智也 氏

    東京都市大学 学長 東京大学 名誉教授